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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

インドとパキスタンの国境を走る

                ≪九月二十日≫     ―壱―

  今朝は目覚めがいい。
 ベッドの上で、チャエのモーニング。
 朝食をとり、チェックアウトを済ませて駅へ向かう予定。
 インドルピーが乏しくなってきたので、宿のマスターに聞いた。

       俺   「銀行は、近くにありますか?」
       マスター「あるけど、オープンは十時だよ。」

 宿は見晴らしのいい二階にある。
 真っ白な壁の部屋で、小さなベッドが二つやっと入る程狭い部屋である。
 ベランダに通じているドアを開けると、なんと従業員だろうか、普段着のまま毛布を被って、ベランダで眠っているではないか。
 この人たちには部屋が与えられていないのだろう。
 かわいそうなものである。

  ベランダから外を見ると、目の前に駅が見える。
 駅からレールが延びている。
 あまり綺麗な街ではない。
 インドの国内で、きれいな街を見つけようというのが、どだい間違っているのかも知れない。

 時間があるぶん、まず駅へ行って、列車の時刻表を確かめてから、銀行へ行けばいいと思い、駅へ向かった。
 これが、正解だった。
 一日に一本しか出ていないと言う、午前九時発のラホール行きの列車に間に合ったのだ。

  ラホール行きの切符は、プラットホームで買うことになる。
 パキスタンとの国境の街、ラホールまでのチケット代は、2.3Ru(80円)。
 さすが国鉄だ。
 列車に乗り込むと、乗客は旅行者、それもほとんどが毛唐たちだ。
 俺の乗った車両には、そういった旅行者が三分の二ほど埋まっている。
 黙って座っている毛唐はおらず、うるさいのなんのって。

 アムリッツア駅を、珍しく予定の九時ちょうどに出発、九時半国境の街Attari駅に到着した。
 Attari駅は、パキスタンとの国境の街で、乗客が乗り降りする駅ではなく、出国手続きする駅のようだ。
 列車がAttari駅のホームに滑り込んでも、誰一人降りようとしない。
 ホームには、大きな木製の机がずらりと並べられている。

 そんなホームを、ターバンを巻いた係員が、制服に身を包み歩き回っている。
 税関の係官なのかも知れない。
 暫くすると、乗客たちは全員ホームに並ばされた。
 緊張する一瞬である。
 何も違法なものを持っていなくても、何が違法かわからないために、緊張する。
 前の国で違法でなくても、次の国では違法と言われかねないのだ。

 仲の悪いインドとパキスタンとの国境に居る。
 列車には、銃を持った係官も見たことがある。
 手渡された用紙に、パスポート・ナンバーや名前、国籍などを書き込み、パスポートに出国のスタンプを押してもらい、荷物を検査され手続きが終る。
 俺の検査はすぐ終った。

 気の毒なのは、ヨーロッパから来て居る人たちだろう。
 一人の小さな可愛い女の子を連れた夫婦が居る。
 何と言っても、この家族、荷物の量が多すぎる。
 大きなバッグが四つに、折りたたみ自転車が二台。
 四つの荷物全てが、中身を見るため全てひっくり返されて調べられているではないか。
 何も出てこなかった後の詰め込みは、すべて夫婦が行う。
 係員は全てひっくり返すだけで、元へ戻す事はしないのだ。
 全ての人たちに調べが終わり、荷物を元に戻すまで、列車は停まったまま。

  この車両には、毛唐の旅行者が多く、なかにはアムリッツアから一緒になった、ベトナム青年も居る。
 日本人に良く似ていて、俺はてっきり韓国人とばかり思ったいたら、ベトナムだと言う。

       俺 「ベトナムでは、普通の人ではなかなか旅行などできないんじゃあないの?」
       青年「フランスに住んでます。」

 なるほど、ベトナムでも金持ちの息子か。
 国内が混乱しているから、フランスに逃げているのか、元々フランスに留学している間に、戦争がはじまったのか。
 彼は混乱が静まるまで、フランスに身を隠していくつもりなんだろう。
 そう思ったが、彼はニコニコと笑顔で答えてくる。

       俺 「何処まで行くんですか?」
       青年「カブールまで行きます。貴方は?」
       俺 「ギリシャまで。」
       青年「ヨーロッパですか。」

                 *

  列車は一時間半ほど停車して、ゆっくりと動き始めた。
 パキスタンに入る。
 何処が国境なんだろう?
 島国の俺にとってはなかなか国境と言う概念がわかりにくいところがある。
 殺風景な平原が続いている。

 途中、駅でもないところで、列車が停車したかと思うと、いきなり銃を持った兵士達が5、6名乗り込んできて、通路を歩き回っている。
 列車は気笛を鳴らしながら走り出した。
 その気笛を聞いた子供達が数人、人家の影から飛び出してきて、列車のほうに向かって手を振ってくる。
 皆貧しそうな服装をしているが、目だけは輝いて見える。
 もうパキスタン領内に入っているのだろうか。
 列車は勢い良く走り始めた。



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